「鳥貴族」が看板や商法がそっくりだとして、後発の「鳥二郎」を訴えた
大手焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」(大阪市)が、看板やメニューをまねた「鳥二郎」を運営する「秀(ひで)インターワン」(京都市)に、類似標章の使用差し止めなどを求めている民事訴訟。
「飲食業界では昔から模倣は数え切れないほどあり、何ら珍しくない。消費者はパクリと称し、本家と異なる模倣店と認識しており、混同されていない」
大阪地裁で4月21日に開かれた第1回口頭弁論。鳥二郎を経営する秀インターワン側はこうした内容を盛り込んだ答弁書を提出し、開き直った。
鳥貴族側が類似標章の使用差し止めなどを求める訴訟を大阪地裁に起こしたが、鳥二郎の運営会社側は「模倣は珍しいことではない」と驚きの反論を展開し、徹底抗戦の構えをみせている。
○パクリは業界の常識?
「鳥貴族だと思って入ったら鳥二郎だった」
だが、秀インターワン側も反論に打って出た。答弁書では「飲食業界は模倣を前提に成り立っている。競合店が互いに模倣し合って外食産業は発展してきた」とし、業界で〝パクリ〟は常識だと主張。
さらに、「『塚田農場』と『山内農場』、『磯丸水産』と『豊丸水産』の例もある」などと他の類似例を次々と証拠提出。
鳥貴族と鳥二郎のロゴや営業形態は「似ていない」とし、同じビルに入居していることについても「飲食店の常套(じょうとう)手段ともいうべき戦略の一つで、鳥二郎が特別なわけではない」とした。
○実は同社、経営するラーメン店でもパクリ商法を展開していることが判明
秀インターワン側は、大阪地裁で開かれた口頭弁論で「パクリは珍しくない」と反論してみせた。実は同社、経営するラーメン店でもパクリ商法を展開していることが判明、波紋を広げている。
鳥二郎の運営会社が出店した「にく次郎」なるラーメン店が、大手チェーンとそっくりという新たな疑惑も浮上した。
店舗の営業の差し止めを求める仮処分を申し立てられるなど、火種は徐々に広がりつつある。生き馬の目を抜く飲食業界では「模倣は文化」という風潮もあるというが、仁義なき〝パクリ商法〟はどこまで許されるのか。
○「丸源ラーメン」も秀インターワンを提訴
愛知県豊橋市の「物語コーポレーション」が経営するラーメンチェーン「丸源ラーメン」も5月14日、秀インターワンが兵庫県西宮市で経営するラーメン店「にく次郎西宮店」に、メニューや外観をまねされたとして、営業の差し止めなどを求める仮処分を大阪地裁に申し立てていたことも分かった。
にく次郎には丸源ラーメンの「熟成醤油肉そば」と同じ名称のメニューがあり、トッピングは豚の薄切り肉やのり、紅葉おろし、ねぎと共通。
店舗の外観やノボリも似ており、インターネットのグルメサイトではユーザーから「まるパクリ? 系列店?」と指摘されている。
○気になる裁判の行方は・・・
知的財産訴訟に詳しい堀田裕二弁護士(大阪弁護士会)は、鳥貴族と鳥二郎の対決について「これまでの判例を考えれば鳥貴族にとって決して簡単な訴訟ではない」と指摘する。
不正競争防止法は、「需要者(例えば消費者や事業者)の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」を禁じている。
鳥貴族側には、(1)鳥貴族の看板や営業形態が世間に広く知られているという「周知性」(2)鳥貴族と鳥二郎を客などが似ていると認識する「類似性」(3)客などが店を間違えてしまう「誤認・混同の恐れ」-の3つの要件を立証する必要があるという。
○判決回避の可能性も
「模倣は文化」とも揶揄(やゆ)される飲食業界では、これまでもたびたび同じような問題が訴訟に発展してきた。
有名なのは大手居酒屋チェーンの「和民」と「魚民」の運営会社が、赤地に白抜きの看板の類似性をめぐって争った訴訟だが、平成16年に魚民側の看板使用を中止する義務がないことを和民側が認める内容で和解。
堀田弁護士は「鳥貴族側の立証のハードルが高い一方、鳥二郎側にとっても訴訟が長引けば長引くほど模倣したのではないかというマイナスイメージがつく。今回も双方が早期決着を図った方が得策だと判断し、判決まで争わずに和解する可能性がある」とみる。