「商標権者、同名ポルノ映画の配給の差止めへ レンタルお姉さん事件」
〔参考〕「レンタルお姉さん号泣 同名ポルノ映画に配給差し止め仮処分申請」(MSN産経 2009年7月2日)
〔参考〕「引きこもり支援の「レンタルお姉さん」 ポルノ映画配給差し止め求める」(MSN産経 2009年7月8日)
[概要]
「レンタルお姉さん」の名称について商標権を有するNPO法人「ニュースタート事務局」(千葉県市川市)は、ポルノ映画のタイトルに、「レンタルお姉さん」の名称がそっくりそのまま流用されたとして、配給元の新日本映像(東京都文京区)に対し、映画配給の差止を求めて東京地裁に仮処分を申し立てた。
訪問スタッフの名称「レンタルお姉さん」をポルノ映画のタイトルに流用されたのが不正競争防止法違反などにあたると主張。
また、原告側代理人は、「映画のようにレンタルお姉さんが家庭訪問でみだらな行為をするという印象を持たれてしまう恐れがある。どのくらい映画が上映され、利益が出たかなどを把握した上で、損害賠償請求訴訟を起こす予定」とコメントしている。
「お姉さん」を派遣するNPO法人は、引きこもりの社会復帰を支援する事業等に取り組んでいる。
[解説]
社会的な解決としてもその主張が何らかの形で認められて欲しいと願うものですが、一方で、純粋な法律論で考えれば、中々に難しい訴訟だと思います。
まず、記事では、商標登録されていることを援用する主張がなされていましたが、残念ながら、これは商標法のイロハを知らないとしか言いようがありません。即ち、商標法で保護されるのは、営業主体(出所)の混同に関してでしかありません。ところが、著作物の題号(つまり、DVDのタイトル)としての利用は、その商品を取り扱っている営業主体(出所)の混同をもたらすという関係に一般的にはありませんので、商標権を侵害するとは普通はいえないのです。
ごくアバウトにいえば、商標権者である「レンタルお姉さん」が、くだんのアダルトビデオの販売をしているなどとは誰も考えない、という時点で、営業主体(出所)の混同がないということです。
この点、商標登録における指定役務として、「映画の上映・制作又は配給」が対象となっていますが(資料参照)、これらも、あくまでも、「映画の製作業をする営業主体として混同が生じるか」という観点から侵害が判断されますから、普通は、無関係だとの判断が下されるものと思われます。
しかも、造語としても、「レンタル」と「お姉さん」という普通名詞の結合に過ぎず、しかも、標準文字登録ですから・・・、何とも、です。実際問題として、「レンタルお姉さん」というアダルト系のタイトルは、ありそうな気もしますし。
なお、弁護士のコメントとして、名称が「周知である」云々と書かれていますが、これは、周知・著名商標だとの位置づけから、不正競争防止法上の差止請求権などにつなげたい、という意図ではないかと思われます。
ちなみに、具体的な登録商標は、「レンタルお姉さん」を、標準文字として登録しているようです。
【追記】
前回も述べましたが、この訴訟の行方は、「新たな判例を作れるか」にかかっていると思います。
(知的財産法の専門でない)普通の弁護士さんは、しばしば、こういった商品にかかわる競争問題になると不正競争防止法を持ち出します。しかし、実は、名称のタイトルへの流用などは、法が本来予定している対象行為ではないのです。なので、難しい訴訟が予想されます。
まず、不正競争防止法の代表的な、【1号周知商品表示】
これは、パクリ商品などでの営業主体を誤認させるような行為を想定していますので、本件のような主体の誤認がおよそありえないものには使いづらいと言えます。
また、【2号著名商品表示】
これだと、本件のような「知名度のただ乗り」的な形での汚損行為をも捕捉することができるのですが、いかんせん、「著名」という要件はそうそう簡単に認められません。過去の判例に照らせば、シャネルぐらいの著名度が必要と思っていてもよいぐらいですから、残念ながら、一登録商標に過ぎない「レンタルお姉さん」では、難しいものがあります。
更に、【3号の商品形態の模倣】
こちらは、物理的なパクリのことですから、名称といった観念的なもののパクリは問題となりません。まして、著作物の題号(DVDのタイトル)としての使用は、よほどのことがない限り、権利侵害とはならないというのが一般的考え方だと思われますので、安易な類推適用は為されないでしょう。
以上より、不正競争防止法を持ち出すよりも、あくまでもその考え方を利用した、一般不法行為の問題として主張すべきではないか、と感じるところです。もっとも、差止請求まで考えると、不正競争防止法を持ち出さざるを得なかったのかもしれませんが。
原告代理人さんが、どの程度、原告NPOさんに説明しているか分かりませんが、一方で、社会的な不当性は頷きえても、他方で、訴訟としての勝訴の可能性の困難さを勘案しますと、むしろ、今回、このような形で訴訟を起こし、かつ、報道発表までしたことで、逆に、同名のアダルト映画の存在を世に知らしめてしまっただけ、のような気がしてなりません。
こちらのアダルトビデオはパッと見ダンゴ3兄弟っぽいですけど、タイトルは『連結ダンゴ状態4P』なので著作権的には大丈夫そうですね
個人的には面白いパロディ系のタイトルは好きです
スタジオジブリ作品のパロディでは『風の谷でナニシタ』『天空の塔ドピュタ』『マゾの宅急便』『しものけ姫』『股の下のポニョ』『事をすませば』等があります。
風の谷でナニシタ
テレビ番組編では『それいけ! パイパンマン』『便器が出るテレビ』。松嶋菜々子主演で視聴率40%超えを記録したお化け番組のパロディで『家政婦の股』。ほかにも『世界の射精から』『女熱大陸』、往年の名作アニメから『あしたのニョー』なんてのもあります。